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東京家庭裁判所 平成7年(少)4340号 決定

少年 K・T(1978.7.24生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

押収してある通貨金2000円(千円札2枚でそれぞれ3枚に切断されセロハンテープ等で接着してあるもの。平成7年押第633号の1)、アルミ箔1枚(同年押第702号の1)及び吸煙具2本(同号の2、3)を没取する。

理由

第1非行事実

少年は、

1  平成7年8月23日午後10時5分ころ、東京都目黒区○○×丁目××番×号の有限会社○○店(代表者代表取締役A)前路上において、同所に設置されている使い捨てカメラ及びフイルムなどの自動販売機の紙幣投入口に、切断するなどして加工した千円札紙幣を挿入して入金を感知させた後、上記紙幣を引き抜き、返却レバーを操作することで1回分1000円を引き出す行為を連続して2回繰り返し、もって、有限会社○○店が管理・所有している現金2000円を盗み取った

2  法定の除外事由がないのに、平成7年7月31日ころ、東京都品川区○○×丁目×番×号の○○×棟×××号室の少年の居室において、麻薬であるジアセチルモルヒネ(ヘロイン)を含有する粉末約0.02グラムを加熱し昇華させて口から吸収し、もって、麻薬を施用した

ものである。

第2適用法令

1  第1の1の事実につき刑法235条

2  第1の2の事実につき麻薬及び向精神薬取締法64条の3第1項、12条1項

第3処遇理由

1  少年は、ヴェトナムで出生し、伯母のもとで12歳頃まで学校に通った後、平成2年(1990年)4月30日、実兄とともに木工船でヴェトナムを出国したが、同年5月7日、海賊に襲われて海中に落ち、約22時間後に航行してきたタイの船に救助されて、以後はタイにある難民キャンプに収容され生活していた。なお、実兄は、海賊に襲われた際、死亡した模様である。少年は、ここで約5年間生活した後、平成7年3月8日、空路で日本に入国し以後、定住者の資格で住居地の国際救援センターで生活を送っている。

2  少年が犯した第1の1の非行(以下「本件1」という。)は、少年が所持していた加工してある千円札で自動販売機から百円硬貨20枚を窃取した事案であり、第1の2の非行(以下「本件2」という。)は、少年が自室で麻薬を加熱し口から吸収して施用したという事案である。

ところで、本件1は、加工した千円札を使って自動販売機荒らしをしたという悪質な非行であること、本件2は、自ら麻薬をいわゆる売人の所に購入しに行っていることやこれまでに5、6回麻薬を購入し施用しており、麻薬に対する常習性・親和性が認められることから本件1及び2に表れている少年の問題点は大きい。

3  さらに、〈1〉少年の交遊関係は本件1及び2にかかわった疑いがある友人のみに限定されていること、〈2〉国際救援センターでの日本語教育にも欠席しがちで日本語をほとんど解することができず、さらに、同センター自室で麻薬を吸収して施用するなど共同生活の場をもわきまえず、他者の迷惑になるような行動を繰り返しており、もはや同センターでの教育や共同生活は限界に達していること、〈3〉少年は来日後間がなく、まだ日本の文化や社会習慣に慣れていないことから今後、日本での生活を希望する少年に対しては、日本語の教育をはじめ日本社会でのルールや慣習などを教える必要があること、〈4〉少年は、人格形成上重要な時期に海賊に襲われて海で漂流したり、難民キャンプに収容されるなどしており、精神面における適切なアドバイスが必要であること、〈5〉現状で少年を同センターに戻せば、昼夜逆転した従前の生活に戻り、再非行の可能性が高いことなどが考えられる。

4  以上の諸事情を総合考慮すれば、少年には規範意識を養い、日本の文化や社会習慣に接する機会を与え、素行不良の友人から切り離す必要が認められ、これらの目的を達するためには、少年を矯正施設に収容し規則的な生活の場で専門家による適切な教育を施すことが不可欠である。そして、これらの教育により所期の目的を達成するにはある程度の時間がかかることから、上記処遇は長期処遇課程での教育が相当である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項を適用して少年を中等少年院に送致し、また、主文記載の通貨金2000円(千円札2枚でそれぞれ3枚に切断されセロハンテープ等で接着してあるもの。平成7年押第633号の1)は第1の1の非行にかかる刑罰法令に触れる行為に供した物であり、アルミ箔1枚(同年押第702号の1)及び吸煙具2本(同号の2、3)は第1の2の非行にかかる刑罰法令に触れる行為に供した物であって、いずれも少年以外の者に属しないから同法24条の2第1項2号、2項本文を適用してこれらを没取することとし、主文のとおり決定する。

(付添人弁護士○○審判立会)

(裁判官 市川太志)

〔参考〕 抗告審(東京高 平7(く)217号 平7.11.15決定)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、申立人が提出した抗告申立書記載のとおりであるから、これを引用するが、要するに、少年を中等少年院に送致した原決定の処分は重すぎて著しく不当であるというのである。

そこで一件記録を調査して検討すると、本件非行事実は、少年が、(一)麻薬であるヘロインを施用し、(二)使い捨てカメラ等の自動販売機から現金合計2000円を窃取したというものである。

少年は、ヴェトナムの難民であり、平成7年3月8日単身日本に入国し、肩書記載の国際救援センターで生活していたところ、同年7月31日頃、(一)の麻薬の施用に及び、同年8月3日、麻薬所持の疑いで家宅捜索を受け、警察に尿を任意提出したが、同月23日には、(二)の窃盗罪を犯したものである。少年は、本件以前にも麻薬を施用し、本件の麻薬も売人から購入しており、麻薬に対する親和性が認められる。また、窃盗も自動販売機の紙幣投入口に加工した千円札を挿入して機械に入金を感知させた後、右紙幣を引き抜き、返却レバーを操作して現金を引き出すという悪質なものである。少年は、国際救援センターの行う日本語教育にも真面目に取り組まず、素行不良の者と交遊し、同センター職員の指導も全く受け入れず、勝手気儘な生活を続け、本件各非行に及んだものであり、少年の非行性は相当深化しており、社会内における処遇は困難な状況にある。

そうすると、本件各非行は、少年の日本社会に受容されない不安感に起因する面も認められること、日本における非行歴はなく、今回が初めての事件であること、少年の特異な成育歴等を考慮しても、少年を素行不良の仲間から切り離し、日本語を修得させ、日本社会の生活習慣になじませるためには、この際少年を施設に収容し、専門家による適切な指導の下に、規則正しい生活習慣を身に付けさせる必要があり、少年を中等少年院に送致した原決定の処分が著しく不当であるとは認められない。

よって、本件抗告は理由がないから、少年法33条1項後段、少年審判規則50条によりこれを棄却することとし、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 佐藤文哉 裁判官 金山薫 永井敏雄)

抗告申立書〈省略〉

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